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北海道の食および食文化の発展に寄与した
個人または団体を顕彰する事業
「小田豊四郎賞」。

任期1年の選考委員の厳選なる審査によって
候補の中から、小田豊四郎賞が選ばれます。





第13回贈呈式が
平成28年5月22日、帯広にて行われました。





 第13回 小田豊四郎賞受賞 

杉本農産
杉本 慎吾 様



杉本 慎吾 様
<プロフィール>
江別で農業を始めて約37年、家族・親戚など総勢15名ほどで野菜作りの生産から販売までを手掛ける。
毎日野菜を育てているからこそわかる「美味しい時」「美味しい顔」を見極め、「きのうは北海道の畑にいた」新鮮な野菜を全国各地へ直送している。
2005-2015年「インカのめざめ」で北海道有機農業研究協議会より特別栽培農産物認定。

杉本農産「春夏秋菜」
http://www.shunkashusai.com/


 私は、先祖代々の農家ではなく、今でいう「新規就農」でした。父親が札幌手稲区で馬喰業を営んでおり、牛舎があった関係で江別に住むようになり、そのまま農業の道へと入りました。輪作大型農業を行っていた私たち夫婦ですが、東京の大学を出て就職していた息子が帰ってくる時のために、アスパラを作り始めるようになりました。その頃、中国大型農業の参入、偽装表示問題など農業をとりまく状況も変化してきて、今のままのかたちでよいのだろうかと、危機感を覚えるようになります。

 息子夫婦は、農業は全く素人でしたが、売る力は持っていました。そして何よりも、北海道という土地柄が持つブランド力を知り得ていましたし、我が家の野菜の美味しさがどれほどのものなのか、ということを客観的に見ることができていました。そうして、今の直販型農業へ少しずつ移行していったのです。

 それからは、毎晩夕食を囲んでは、色んなことについて話し合いをし、「北海道の人が本州の家族や親戚に送るギフト」をコンセプトに、私たちにしかできないことは「最短」で届けることだという結論に至りました。こうして「きのうは北海道の畑にいました」「春夏秋菜」が誕生したのです。2001年のことです。

 さらに、美味しいもの・皆さまに喜んでいただけるものを作りたいと、じゃがいも博士の梅村芳樹先生にお願いして、我が家に講習にきていただきました。その時先生が「世界一美味しいじゃがいもだよ!」と渡してくれたのが「インカのめざめ」だったのです。「インカのめざめ」のおかげで、新聞や雑誌に数多く掲載していただき、それを見たある人が虎ノ門のホテルオークラの橋本保雄さんをご紹介くださったのです。橋本さんはホスピタリティ協会の会長さんでした。私たちは、ホスピタリティ=おもてなしの心を学び、農業にもこれからはホスピタリティが絶対必要となってくる、そう確信しました。

 春夏秋菜のブランドづくりの方向性を導いていってくれたもの、それは、全ては人との出会い・つながりでありました。不思議なご縁で、必然的に今日に至ったものだと思っております。

 最後に、本日は、平松先生、それから小田豊四郎記念基金の皆さまのはからいで、娘がお客さまにご発送する際に同封していた手紙を、掲示していただきました。私事ですが、今年は娘の七回忌の年でありまして、節目の年に、小田豊四郎賞という素晴らしい賞をいただけたことに、改めまして、心より感謝申し上げたいと思います。本当にどうもありがとうございました。




選考委員 平松 洋子様
<プロフィール>
岡山県倉敷市出身。東京女子大学文理学部社会学科卒業。世界各地を取材し、食や生活文化を中心に幅広く執筆活動を行う。リアルで繊細な描写と味わいある筆致で稀代のエッセイの名手との呼び声が高い。
『買えない味』で第16回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞、『野蛮な読書』で第28回講談社エッセイ賞受賞。


 今回、僭越ながらこの顕彰の選考委員に選んでいただいて、なんの迷いもなく杉本農産さんが頭に浮かびました。ご縁ができてから14年間、杉本さんが作った野菜を一消費者として注文して、家庭で食べ続けてきました。最大の楽しみは、アスパラガス、枝豆、とうもろこし、ビーツ、じゃがいも…と、野菜を通して季節が感じられることです。今年のとうもろこしは、すごく甘いな、北海道はこういう天候だったのかなと、食べることを通して、作っているひとや畑の様子…その背景が伝わることを杉本さんの野菜が教えてくれました。

 そして大切なのは、ご家族でやっていらっしゃることです。自分たちが収穫できる量しか作らないというのを徹底されていて、誇りをもって育てたものを、いかにとれたての状態で届けるかにも尽力されています。仕事柄、いろいろな生産者に会いますが、どうしても収穫したらホッとして終わり、そこから先は配送の専門に委ねる方が多いと思います。でも、杉本さんのところは、いかにとれたてをそのまま食卓に届けるかをとても工夫して実行、実現されています。

 通販という販売形態を選ばれたことも大きいと思います。これだけ丹精込めて作ったものをどうしたら直接伝えられるんだろうという一念だったのではないでしょうか。わたくし自身、杉本さんの野菜を周りにも分けるのですが、みんな味が忘れられなくて、口コミで輪が広がっていきます。食べて納得して、自分で注文せずにはいられない。そして電話をすると、千春さんがまるで家族のように受け答えをしてくれて、北海道に親戚ができたような気分になると友人たちは言います。そんなふうに少しずつ、手堅く杉本家の味が理解されて伝わっている…これは畑の生産物に限らず、すべての食べ物について、生産者から消費者に届く上での果敢な試みだと拝見しております。

 もうひとつ、野菜が届くと一緒にお手紙が入っているんですね。杉本家の今の畑の様子が伝わるお手紙です。これはご長女の則子さんが手書きで作られていたものです。残念ながら則子さんは6年前に急逝されてしまいましたが、そういうご家族の歴史も生産物に宿っているのではないかと感じています。家族のあり方、人の営みといった物語がいただくものにも伝わるので、こんなにも全国の方に慕われているのだと。


 東京ドーム9個分もの土地で、毎年天候も違うなか、露地ものを育てるというのは、わたくしには驚異的とさえ思われます。今日は本当におめでとうございました。


  新聞記事より

(北海道新聞 2016.5.23)





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